あやのん手帖

セレクトインテリアショップ「SHIOGAMA APARTMENT STYLE」のスタッフがつづるブログ。

 No.15 ちょっと長いけど聞いてほしい話

12年前、一人のグラフィックデザイナーから、愛知県の家具メーカーに連絡がきます。
「椅子を、売らせてほしい。」
その椅子は、すでに廃盤寸前、メーカーは断ります。


デザイナーは、店を作ろうとしていました。
サイクルの早い消費、つぎつぎ生まれて、つぎつぎ捨てられていく。
でも、「本当にいいものだけが、絶対に残る。」
当たり前のようにも思えるそのことを、信じた彼は、その椅子にこだわります。
「ずっと作り続けられているこの椅子を、絶対に廃盤になんかしちゃだめだ。」


メーカーに断られた彼は、お客さんとして家具屋に行き、
ちょっとだけ安くしてもらって、その椅子を買い、自分の店に持ち帰り、定価で販売をはじめます。
ただ、彼がしたこと。
自分の店の名前を刻んだプレートを、椅子につけたこと。
その椅子が並んでいるカフェのメニューとして、一緒に椅子も載せたこと。


そして、椅子には爆発的に注目が集まります。
「かっこいい」「すてき」「ほしい」
メーカーも黙っているわけにはいかず、デザイナーのもとへ企画書を持ち込みます。
その店ためのオリジナルとして、よく似た椅子を、新たにデザインしたものを。


デザイナーは、大激怒します。
「俺がやりたいのは、そんなことじゃない。」
「この椅子そのものじゃなきゃ、意味がない。」
「あなたたちは、自分の会社のことを、何もわかっていないのか。」


「頭をガツンと殴られたような思いだった。」
その椅子のためのチームは3人。
何度もデザイナーのもとへ足を運び、社内じゅうを駆け回って自分たちの会社に眠る資料を集め、
中には、もうすでに図面のなかった商品を再び作り出すため、工場にかけあい、
「なぜ、そんな廃盤寸前の椅子を?」
理解を得るのも、難しいこと。
でも、デザイナーが言うからだけじゃない、人気が出たからだけじゃない、
自分たちが、これからもずっと、この椅子を作り続けるんだ、販売し続けるんだ、という覚悟がありました。
「やってやろうじゃねーか。」


2003年、メーカーのもとへ、一人の愛知県人から連絡が入ります。
「椅子を、売らせてほしい。」
ですが、その愛知県人は、肝心の売る店をまだ持っていませんでした。
「これから作る店で、椅子を売らせてほしい。」


チームの3人はそのとき、同じ思いで椅子を販売してくれる店を探しているところでした。
取り扱いたいという声があれば、足を運び、直接会って、思いを確かめていく日々。


愛知県人も一生懸命に思いを伝えました。
塩釜口のアパートに住む男性の部屋をかっこよくするためには、絶対にこの椅子がいるんだ。」
何度も会って、思いを語りました。
その椅子のことを、他の誰よりも強い思い入れで、愛知県人は考えていました。


新しくオープンした愛知県人の店には、その椅子が並ぶことになります。
気づいたことがありました。
「この椅子が自分たちの住む町で作られていることを、みんなが、こんなにも知らないなんて。」


ずっと付き合えて、絶対にかっこいい椅子が、
自分たちの住んでいるすぐ近くで、何十年も作り続けられている。
そのことを、もっと知ってほしい、それが絶対に、この町に住む人の暮らしをかっこよくするから。


愛知県人は、椅子が作られている工場見学をする会を開きました。
そのために、新幹線で駆けつけてくれる方がいました。
椅子を作った人と、椅子を使っている人が出会う会を開きました。
2時間半たってもまだ足りないくらい、みんな椅子のことを語りました。


デザイナーの作った店は10周年を迎えます。
愛知県人の作った店は8年目になりました。
その椅子は、愛知県の家具メーカーで、49年作り続けられています。


今日も店には、その椅子を見に来る方がいます。
わたしの仕事は、明日もあさっても9年目も、この話をしゃべりつづけることです。